私およそ2年弱、大手の自転車店で
接客販売のアルバイトをしていました。
その時、なぜか古いタイプの
ロードバイクに心底惚れていたんです。
…もちろん、見た目に( ̄▽ ̄)
古いロードバイクとは、
競技用の鉄製の自転車です。
パイプが細くてまっすぐ、
時折継ぎ手に装飾が施されたりしています。
一つ一つ職人の手で作られた、
とんでもなくお美しいものです。
当時は、自転車作りたい!とすら思い、
鉄製ロードのオーダーメイドを
受け付けているスポーツ自転車専門店
≒プロショップに話を聞きに行き、
店主さんの伝手で職人さんの工場に
お邪魔しに行ったほどでした。
渾身の手仕事たち
東京ではおよそ2年に一度、
ハンドメイドバイシクル展というのが
開催されているようです。
その名の通り、手で一つ一つ作られた
自転車ばかりが展示されるイベントです。
プロの職人さんの力作から、
専門学校生の優秀作品、
そして何十年も前に作られ保管されていた
歴史を感じる古い代物まで。
お世話になったプロショップの店主さんに
開催情報を教えていただき、
一度足を運んだことがあります。
参加客にまみれつつも、車体は見るだけで圧巻、
感動しながら回れるのですが、
時間を迎えると、実際の職人さんの
講演を聞くことができました。
その時話してくださったのは、
とある溶接技術で有名な職人さん。
自転車のパイプを溶接する時に、
繋ぎ目がわからないように
滑らかに溶接するという手法です。
熱して溶かした接着用金属を
多めに使い、その後削っていきます。
名前はフィレット溶接。
私もそうですが、
中途半端に知識のある人間は、
“フィレット溶接”という言葉を
知っているものですから、
こぞってこれについて聞きたがるんです。
でも、職人さんにとっての
フィレット溶接は
我々の認識とは別次元でした。
フィレット溶接は、「自転車」を作る
技術で過程の一つに過ぎない。
もちろん手を抜くわけではないし、
細部までこだわって作る。
でも、それだけが重要なのではない、と。
職人さんが見ているのはもっともっと先。
お客さんに、「ベストな自転車」ないし
「ベストな自転車ライフ」を
届けるのが仕事なのだと仰いました。
確かに技術が優れていないと、
美しいフィレット溶接は成し得ない。
けれど、それは自転車のほんの一部に過ぎない。
オーダー主にとって最適な自転車とは、
その人の乗り方、目的、ライフスタイルに合った
自転車です。
早く走りたいのか、ゆったり走りたいのか、
舗装路か、ダートも含むのか、荷物は積むのか、
どれくらいの頻度で、どのくらいの距離走るのか、
身長、体重、性別…
そして、見た目の好み。
しかも、自転車はとんでもなくたくさんの
パーツでできています。
鉄パイプで車体を溶接してこしらえた後、
いろんな既製品を組み付けなければ完成しないんです。
車輪の径や太さは、使いたいタイヤは、
ハンドルは、ブレーキの種類は、ギアは、
積載用のキャリアはつけるか…などなど。
設計の段階で、最後に組み付ける
パーツのことも考えているんですね。
寸法的な設計も使うパーツも、
乗る人の体型の他、乗り方・使い方によって
全部変わってきます。
だから、ちゃんと自転車に乗る人じゃないと
そこまで考えて作ることはできないんです。
ちょっと詳しい、くらいじゃ
お客さんの自転車ライフに
フルコミットできません。
この話を聞いた時、
私はとんでもなく感動したのを
覚えています。
そこまで考えているんだ…と
涙が出そうでした。
やれフィレット溶接だ
ラグ(パイプの継ぎ手の装飾)だ、などと
浅ーい見た目の範囲にとどまっていたのが
恥ずかしくなるくらい。
ものづくりが好き、自転車が好き、くらいでは、
自転車を作ることはできないんだと痛感したと同時に、
そのくらい高次元でお客さんの自転車ライフと向き合う
職人気質に心震えました。
あらゆるもので目指せる、高い次元
何かをする時に、どんな次元を目指すのか、
というのは自転車を作るとき以外にも
言えることです。
例えばご飯を作るだけでも、
綺麗な形に野菜を切り揃えるのが目的なのか、
いい分量の塩加減にするのが目的なのか…
いや、食べる人が幸せな心地になるくらいの
料理を目指しているのか。
目的が高いところにあると、
そこに至るまでの過程ですら
出来も思い入れも何もかも
変わってきます。
私は、お客さんの自転車ライフを
見据えて自転車作りの全てを手がける
職人さんのように、
常に高い次元の目的を見据えて
動けたらいいのになと思います。
これには結構修行が必要そうなので、
頑張らねばならないぞと…。
この話、個人的に大好きなので
書かせていただきました。
ではでは、また。
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